船箪笥とは|船箪笥と銘木

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船箪笥とは|船箪笥と銘木



目次

1.船簞笥とは

船箪笥は江戸時代から明治時代にかけて、物流の動脈であった廻船(俗に言う千石船)で、船頭や乗組員たちが使用していた金庫と衣裳櫃です。

『船箪笥』という言葉は、柳宗悦氏をはじめとする民藝運動を推進した方々によって生み出され、大正15年(1916)に初めて活字として登場しました。

 

当時の船は一本柱一枚帆での航海だったため、荒海での長い航海における破損等に耐えるよう、頑丈に製作されました。

重厚かつ豪快なデザインは、日本の家具の中でも際立っており、早くから人々に注目されていましたが、船箪笥を最初に特集し分析したのが柳宗悦氏です。昭和36年(1961)に彼が著した『船箪笥』によって、船箪笥は広く世に知られるようになりました。

 

船箪笥は素朴で繊細な日本の家具の中でも特異な存在で、その威容を誇っています。特徴的なのは、鉄と銘木の使い方です。鉄の透かし彫りや華やかな絵様刳形は、まるでレースのように緻密で細かく仕上げられています。

船箪笥

欅の玉杢と鉄金具|写真『箪笥工房はこや様』

表面の木材には、玉杢(たまもく)や如鱗杢(じょりんもく)など最高級の欅材が使用され、漆塗りが施されています。艶のある赤褐色の欅の木肌と黒い鉄金具のコントラストは、息を呑む見事さです。

これらの船箪笥は、江戸時代当時、民衆に使用が許されていた最高の材料を結集して作られた逸品です。

 

 

2.船簞笥の種類

船箪笥には、大きく分けて懸硯(かけすずり)帳箱(ちょうばこ)半櫃(はんがい)の3種類があります。

懸硯と帳箱は一種の金庫で、半櫃は衣裳櫃に相当します。懸硯の名称は全国共通ですが、帳箱や半櫃の名称は一般的ではなかったようです。

 

① 懸硯

懸硯

懸硯|写真『箪笥工房はこや様』

 

〈用途〉

手提げ金庫として、船頭が航行に必要な許可書類、印鑑、現金などの貴重品類を収めていました。

 

〈形状〉

前面に多くの鉄金具が張り巡らされており、非常に頑丈で立派な作りが特徴です。

正面には片開戸があり、上部には提手が付いています。片開戸の内部は、上段に二段の引出しがあり、下段は左右に分かれています。

右側には硯を入れる浅い引出し(内側は黒漆塗が多い)と、その下に小さな引出し、その奥に隠し箱があります。左側には深い引出しが付いています。

 

〈素材〉

初期の古いものは、すべて桐や杉で作られていましたが、後期になると外側は欅、内側は桐が使用されるようになりました。

 

〈寸法〉

間口約1尺5寸(45㎝)、奥行と高さは約1尺6~7寸(48~51cm)ほどの箱形です。

 

② 帳箱

帳箱

帳箱|写真『箪笥工房はこや様』

 

〈用途〉

商業上の書類や帳簿などを入れる小型の箪笥の一種です。昔の職人の誠実さと確かさが感じられる品で、現在でも貴重品入れとして十分に使えるものが多いです。しかも、鍵は一つひとつ全て異なり、普通の合鍵では到底開かないため、安全性も高いです。

 

〈形状〉

帳箱は種類が非常に多く、時期によって形も異なります。大別すると慳貪型(けんどんがた)と複合型に分けられます。

表面は一枚の倹飩蓋(けんどんぶた)か、一部出面(でづら)となっており、技術も精緻で外観は智と力と美を示す船箪笥発達の極みです。上等な帳箱には厚い帆布で作った油単を掛け、木製の外箱に入れます。油単は紺地に屋号や定紋を白で抜いたものが多く、外箱は杉や檜などで作られ、形は慳貪型が多いです。

 

・慳貪型(けんどん – がた)… 正面に慳貪蓋が付いている型

・閂 型(かんぬき – がた)… 正面に閂がつき、厳重に守られている型

・抽斗型(ひきだし – がた)… 引き出しだけのシンプルな型

・複合型(ふくごう – がた)… 様々な要素を含みつつ、複雑なからくりが仕組まれている型

船箪笥

帳箱|写真『箪笥工房はこや様』

船箪笥

帳箱開封時|写真『箪笥工房はこや様』

 

〈素材〉

古くは桐が使われましたが、後期には外側が欅、内部が桐のものがほとんどです。

 

〈寸法〉

おおよそ、間口が1尺7~8寸(約51~54cm)、奥行・高さとも約1尺5寸(約45cm)ほどです。

 

③ 半櫃 

船箪笥

半櫃|写真『箪笥工房はこや様』

 

〈用途〉

半櫃は、船員たちが衣類を収納するための衣裳箪笥です。

 

〈形状〉

正面が慳貪蓋で、中に二つの引き出しがあるのが基本形で、これを二つ重ねにしたタイプも存在します。

 

〈素材〉

材料は、外側が欅(けやき)、内部が桐(きり)で作られています。帳箱同様に、厚い帆布で作られた油単を掛け、その上に木製の外箱に入れて船内に置かれていました。

 

〈寸法〉

間口が2尺5~6寸(約75~78cm)、奥行が1尺5寸(約45cm)、高さが1尺7~8寸(約51~54cm)です。

 

尚、すべての船箪笥に共通していることですが、船箪笥の外板および引き出しの前板には多く欅が使用されていますが、引き出し等の内側はほとんど桐材で作られています。これは、船箪笥の特色である「外剛内柔」の特色を示しています。

 

船箪笥は船中では船頭の間に据えられていましたが、船が港に入ると、船頭は若い衆に船箪笥を持たせて上陸し、行きつけの船問屋(船宿)に泊まりました。

懸硯や帳箱には貴重品が収められているため、上陸後も船頭は鍵を片時も肌身から離さなかったのです。

 

船箪笥は荒海での長途の航海にも耐える頑丈さを持ちながら、上陸しても金庫や書庫としての実用性を十分に発揮する、日本的な美術工芸品なのです。



3.船簞笥の役割と重要性

船箪笥は船の備品ではなく、船乗り個人の持ち物でした。中でも重要なのが懸硯と帳箱で、これらは主に船頭が使用し、一般の乗組員が持つことは稀でした。懸硯や帳箱には、「船往来手形」、「送状」、「日帳」、「船中御条目」、「現金」、「印鑑」などの貴重品や重要書類が収められていました。

 

船の航行に必要な許可書類、特に「送り状」、「売買仕切」、「日帳」の三種は、海難などの際に重要な証拠となるものでした。そのため、航行中は船頭が常に手離さないよう義務付けられており、紛失すれば刑事責任を問われるほどでした。これらの重要書類を保管するために、懸硯や帳箱が用いられ、航行中は船頭の部屋に置き、上陸時には必ず持ち運ぶことが求められました。

 

このため、いざ離船という時には、船頭は懸硯を最優先に持ち出しました。懸硯や帳箱は、単なる金庫としての役割を超え、一種の公的な意味を持つ非常に重要な存在のものでした。

 

 

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〈参考文献〉

『柳宗悦集:私版本.第3巻 船箪笥』柳宗悦[著]春秋社(1974.5)

『船箪笥の話』越崎宗一[著]ゑぞ・豆本36号 北海道豆本の会刊行(1962)

『和箪笥集成』木内武男ほか[著]講談社(1982.6)

『箪笥 – ものと人間の文化史46』小泉和子[著]法政大学出版局(1982)

『和家具の世界』小泉和子[著]河出書房新社(2020)