手間がかかる木桶仕込みだからこそ、実現できる「本物の美味しさ」

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手間がかかる木桶仕込みだからこそ、実現できる「本物の美味しさ」

醤油、味噌、酢、みりん、日本酒など ー

これらの日本の伝統的な醸造品は、その風味と深いコクで世界中から愛されています。

その秘訣は、醸造に使用される特別な道具にあります。それは、木桶です。

木桶はただの容器ではなく、醸造において五感を満たす極めて大きな役割を果たし、数世紀にわたる伝統と風味を守り続けてきました。

この記事では、木桶仕込みの歴史とその魅力に迫ります。

 

トピック

1.木桶仕込みの歴史

木桶の歴史は古く、家庭用サイズの桶(結桶)は11世紀後半(1050年ごろ)には北部九州地域で使われていたことが出土品調査から分かっています。

1200年ごろには、結桶を井戸枠として転用する井戸が出現し、桶に水分や食糧を貯蔵していたことも確認されています。

木桶

結桶|13世紀|博多遺跡群|福岡市埋蔵文化財センター所蔵

 

その後、1500年ごろには、しょうゆ醸造専門の職人による大桶で商業的に生産されるようになりました。商用の場合、大桶で大量に仕込むことで麴菌のばらつきを均質化する狙いがあったと考えられています。

 

木桶仕込みの醤油生産地として有名な小豆島を例にとると、塩など醤油づくりに必要な素材に恵まれ、商業圏である大阪との距離も近く、商用船でのしょうゆ販売を積極的に行なっていました。

大型船に大量のしょうゆを積むにあたり、軽くて大きな運搬用の杉樽が役立ったようです。

 

また、京都の伏見や兵庫県の灘では酒造りが盛んで、酒醸造には奈良県の銘木・吉野杉が使われており、専門の桶職人がいたことが分かっています。

小豆島、和歌山、奈良、京都などのしょうゆ・味噌の醸造元では、酒蔵で使用された大桶が払い下げで使用されてきました。

木桶

仕込みを終えた木桶

 

 

2.木桶に用いられる木材と、その理由

木桶には一般的に杉の木が用いられています。

杉の木は、全国的に入手が容易であったことに加えて、加工も簡単だったことなどから、当時の人たちにとっても便利な木材であったことが考えられます。

木桶

軽軟で加工し易い杉樽|弓削田醤油 様

 

都があった京都や近隣諸国の酒醸造には吉野杉が使われており、一般的な杉との違いを当時の人たちが明確に感じ取っていたのかもしれません。関東圏の木桶仕込みの樽も、やはり地元の杉を用いて作られることが多く、木桶仕込みには杉の木が欠かせなかったことが分かります。

 

また、江戸時代に入ると、尾張藩所領の木曽椹(さわら)を用いて桶の製造が盛んにおこなわれました。旧桶屋町には、藩御用達の桶職人が多く住んでいたといわれます。

 

木桶が醸造において優れた役割を果たす理由は、その独自の特性にあります。木の隙間には醸造過程で重要な旨味成分となる菌が常在化し、醸造物に深いコクと風味をもたらします。

プラスチックや鉄のタンク容器では得られない豊かな香りと味わいが、木桶で育まれた醸造品には宿るのです。

 

3.木桶仕込みは日本独自の文化

大豆や穀物を主原料とした醗酵調味料はアジア各国で見られます。例えば、韓国のカンジャン(液体の大豆醗酵物で、醤油のようなもの)とテンジャン(固体の大豆醗酵物で、味噌のようなもの)は、醗酵させた乾燥大豆と塩水を陶製の甕に仕込んで作られます。製造工程の途中で液体と固体に分離されるのが特徴です。

甕醸造

甕醸造

一方、日本の味噌と醤油は、大豆と穀物麹を組み合わせて大容量の木桶に仕込みます。この点で韓国の調味料と異なります。また、固形の味噌と液体のしょうゆは、原料や製法が異なります。これが韓国や他のアジアの調味料との大きな違いです。

 

4.木桶仕込みの効果

現在、木桶仕込みのしょうゆ流通量は、全体の1〜2%とも言われるほど低水準で、ほとんどがFRPやプラスチックの容器での仕込みに取って代わっています。

木桶づくりにかかる労力、コスト、衛生管理の難しさが障壁となっているようです。

木桶

古くなっても修理しながら使用する木桶|弓削田醤油 様

 

しかし、木桶仕込みの醤油や味噌など醸造における木桶の効果は、非常に高く、味や香りへの影響力がとても大きいことが分かっています。

特に、木桶仕込みの味噌には、香気成分がたくさん含まれており、豊かな香りがふくよかな味覚への影響に繋がっていると考えられています。

 

木桶仕込みは身体に良いのか?

木桶仕込みの伝統的な醗酵調味料は麹菌を使って作られます。菌は木桶に棲みつき、蔵特有の風味を醸成してくれるのです。1年をかけてじっくりと醗酵させることで、麹菌が原材料を分解し、乳酸菌や酵母菌が発達し、当初の原材料の数十倍にも及ぶ栄養素が含まれる特別な調味料となります。

一方で、鉄やプラスチックのタンクで製造される調味料には菌が棲み着くことが出来ないため、製造過程にて醗酵と熟成に必要な菌を後から加えて製造いたします。化学的に醗酵期間を短縮したり、食品添加物や防腐剤、化学調味料を使用した調味料には、木桶仕込みに含まれるような栄養素は期待できないといいます。

そのため、プラスチック等の容器で仕込まれたものとは違い、木桶仕込みの調味料は、味覚や嗅覚、腸内環境に良い影響を与える特別な要素を持っているのです。

 

木桶仕込みであることに加え、原材料に用いられる大豆も非常に重要です。

醤油を仕込む際には大量の大豆を使用しますが、丸大豆(大豆を丸ごと使用)を使用するのか、脱脂加工大豆(大豆から油を抜き取った後のカス)で製造されているのか。大きくこの二つに分けられます。

丸大豆には、大豆本来の旨味成分が含まれています。一方で、脱脂加工大豆は大豆から油を抜き、食用油などに利用された後の大豆カスですので、旨味成分等が不十分で、製造過程にて添加物や化学調味料、香料を加えて醤油づくりが行われています。脱脂加工大豆由来の醤油は安価で大量に生産できるため、流通の8割以上を占めています。

 

丸大豆を使用した無添加の木桶仕込み醤油となると、流通全体の1%とも言われています。製造方法、原材料、食品添加物等の条件を踏まえると、いかに製造が難しいかが窺えます。

 

良いものを時間をかけて生産してくださる職人の皆さま、その伝統を残してくださった先人達のことを考えると、身体に良い調味料を消費することで、次の世代にも遺していきたいと思いました。

次回からは、木桶仕込みの蔵元様のお話を掲載して参ります。

©️2024 Yamato meiboku Corporation.

 

〈参考文献〉

『紀伊半島と小豆島のしょうゆづくり – 木桶造りの伝統と変化 – .醤油の研究と技術』

福留奈美[著]一般財団法人 日本醤油技術センター[会誌](2021)Vol.47 , No.4

『甲信越と静岡のしょうゆづくり . 醤油の研究と技術』

福留奈美[著]一般財団法人 日本醤油技術センター[会誌](2021)Vol.47 , No.4